今号の12〜13ページに、ダッフィールド・ファミリー基金(現在はマディーズ基金)より、1998年10月以来、読者の脳裏について離れなかったであろう、ある問いに対する答えが掲載されている。1998年10月、本誌(アニマル・ピープル)はIT企業ピープル・ソフト社の創立者デーブ・ダッフィールドとチェリル・ダッフィールド夫妻が、ダッフィールド・ファミリー基金(現在はマディーズ基金と改名)の2億ドル(約210億円)の資産を、アメリカを「処分ゼロの国(ノラ猫やノラ犬の殺処分を行わない国)」にするために使うつもりであると発表した。同夫妻は、サンフランシスコの動物虐待防止協会(SPCA)で24年間代表を努めたリチャード・アバンジーノ氏をそのプロジェクトのディレクターに起用した。
この「2億ドル問題」とは、乱暴に言えば、「どうやったらうまい汁を吸えるか」という問いである。その答えは、要約すると、「線路をつくれ」である。
募集案内に書かれているように、マディーズ基金は、掲げられた期限までに「処分ゼロ」目標を実現するために、動物保護や管理を行う組織が調和のあるパートナーシップを築くことを求めている。早く応募すれば得をするが、線路上に陣取った他の車両を顧みずに突進してしまうと、ケーシー・ジョーンズのように追突事故を起こし、最後には乗車切符すら得られない状態となりかねない。
このような助成先募集の新しいやり方は、全米中のシェルター建設に充てられるすべての寄付金を足し合わせた金額をも上回るような資金を提供できるマディーズ基金にはふさわしいといえる。従来、動物保護分野の助成財団は、あたかも失敗を期待しているかのごとく、助成活動の効果を重視してこなかった。
それは驚きに値しない。現に、あまりに多くの自己破壊的な方針や手法が、人道支援活動家の間ではびこっている。明白な例としては次のようなものがある。
・不人気な自治体の動物過剰繁殖対策に補助金を与え、寄付金の低迷に頭を悩ませている。
・家出して路頭に迷う動物の飼い主に多額の罰金を科し、飼い主が飼い犬登録をしたり、迷子のペットが捕獲 されても名乗り出たりすることにマイナスのインセンティブを与えてしまう。
・不妊去勢手術を施していない動物を里親に渡してしまう。
・里親に要求する能力水準が高すぎ、ほんの少しの対処可能な問題さえ解決していれば難なく里親となれたような人までをも排除してしまう。
成功の前に立ちはだかってきた障害が何であったのか検証し、その障害を解体することで、アバンジーノは全米初となるサンフランシスコのNo-Kill City(処分ゼロの市)化を成し遂げた。それは1994年4月1日、サンフランシスコSPCAとサンフランシスコ市動物管理局の間に結ばれた協定で具体化したものだ(※1)。
この、アバンジーノの「箱の外側を考える」ことのできる能力と、従来にない斬新な手法へのチャレンジ精神が、ダッフィールドの心を捉えた。ダッフィールド自身も、自分の手で財産をつくりあげてきた。だから、彼らは結果を重視する。
また、マディーズ基金のガイドラインは「基本的に施設建設を目的としたプロジェクトには助成を行わない」と規定している。
1998年10月以来、私たちのもとにはアバンジーノの連絡先に関する問い合わせが殺到した。マディーズ基金が、すし詰め状態となったシェルターの拡張工事や改築のための資金を提供するよう、考えを改めることを求めるためだ。マディーズ基金が出したガイドラインを見て、彼らはショックを受けるだろう。
彼らの言い分は、「より多くの里親や寄付者の関心を惹くためには施設の改築や移設が緊急に必要である」、「より多くの動物をより長期間収容するためには檻の数を増やす必要がある」、「コミュニティーで『処分ゼロ』を達成するためには、(シェルタ−を中心とした)施設への投資が必要不可欠である」といったものだ。多くの人々が、コストのかかる施設建設のプロジェクトこそが、マディーズ基金からの助成を得るにふさわしいということになることを雄弁に語る。
アバンジーノがマディーズ基金の助成活動は結果重視だと初めから強調していたために、彼らが思い違いをしてしまった気持ちはわかる。結果重視を標榜してきた動物保護関連の寄付者というのは、伝統的に、施設建設を好む傾向がある。それは、シェルターや猫を収容する部屋、犬の遊び場といった箱物建築は、資金の使われ方が目に見えてわかるという利点があるからであろう。あるいは、皮肉って見れば、建築物への寄付というのは、石やブロンズに自らの名前が刻まれる絶好の機会なのである。
1994年に開業したオークランド動物虐待防止協会(SPCA)の里親紹介施設や、1997年に開業したサンフランシスコ動物虐待防止協会(SPCA)のマディーズ里親センターを見た人たちは特に、マディーズ基金が施設への助成を行わない方針であると聞いて驚くであろう。
どちらの施設とも、ダッフィールドが提供した資金によって建設費の主要部分が賄われた。そしてそのどちらとも、従来の動物シェルターの概念を覆す、画期的なシェルター建築の代表作だ。オークランドSPCAのシェルターは、訪れる人々の快適さを考えてデザインされている。マディーズ里親センターはその概念を一歩進めて、人間と動物の双方が快適な時間が過ごせる環境を考慮したつくりとなっている。
アバンジーノもダッフィールド夫妻も、これらの施設と同様のデザインが他の施設でも導入されることを望んでいるはずだ。ダッフィールドの希望で、オークランドとサンフランシスコのSPCAでは、施設のPR活動、中でも他の動物保護機関のスタッフを対象とした施設見学ツアーに力を入れている。
しかし、上に述べたように、マディーズ基金は施設建設への助成に前向きではない。その理由についてアニマル・ピープル誌がアバンジーノ氏に直接尋ねたところ、こんな説明を聞かせてくれた。

建物それ自体は、シェルターでの「殺処分」を減らさない。もし収容能力が高ければ、殺処分を少しでも遅らせることができ、またより魅力的で利便性の高い施設にすればより多くの里親を見つけることができるかもしれない。しかし、殺処分数削減のための重要な鍵を握っているのは、出生率の減少だ。そしてこのアプローチは既に採用されてきており、シェルターで殺される動物の数を15年間で2/3も削減した。動物も故郷に戻してやることができる。
出生率と殺処分数との関連性は、サンフランシスコSPCAが長年訴え続けていることではあるが、恐らく、何故アメリカ国内のシェルターで未だに毎年550万匹もの犬猫が殺され続けているのか、という事を説明する上で、最も語られることのなかった側面だろう。毎年、殺される運命にある150〜220万匹の犬たちのうち、半分は飼い主がシェルターに持ち込んだものだ。そして犬猫をシェルターに引き渡す飼い主によって最もよく掲げられる7つの理由のうち上位3つまでもが、飼い主の住む住宅においてペット所有が認められない、というものだ。
マディーズ基金は、コミュニティー内のペットの過剰繁殖問題を包括的な解決へと導くために、動物福祉関連団体が連帯することを望んでいる。アバンジーノが私たちに語ったところでは、施設建設であったとしても、シェルターでの殺処分を確実に、即効的に減らすことのできる多面的なアプローチの一環として行われるものであれば、マディーズ基金の資金を獲得できる可能性がある。
しかし、アバンジーノはこうも指摘する。動物保護団体が殺処分を減らすためにできる活動のうち、施設建設というのは地元の助成団体から最もたやすく資金を得る方法である。寄付者がその名を世に知らしめるための機会ともなり得るし、より重要なことには、施設の改築費用には住宅ローンを利用することができる。それなりの活動実績のある団体であれば、金融機関の審査をパスできる信用力もあるだろう。もしすでにシェルターを持っていたり、少なくともシェルターの建設用地を所有したりしている場合は、それを担保とすることができるだろう。もし本当に魅力的な施設建設プロジェクトを開始する夢とやる気があるならば、作業が進み、結果が目に見えるようになったら、それはコミュニティーの多くの人々を惹きつけ、支援を生み出すことになるだろう。つまり、教会や図書館、消防署、大学など、あらゆる類の施設を建てる時と同様の待遇が期待できる。
施設建設プロジェクトにはコミュニティーの支援を模索するよう奨励すると共に、マディーズ基金はそのようなプロジェクトが陥りやすい間違いを犯さないよう注意を促している。それは、負債のリスクを恐れて、施設建設に必要な資金が全部揃うまで貯金し続けるというはるかに大きいリスクを犯すというものである。
過去20年間、建築業界の物価は利子率を大きく上回る速さで上昇してきた。シェルター建設を夢見て、数年間、場合によっては数十年間、細々とお金を貯め続けてきた団体は、物価上昇のために未だに夢を実現できていない。最初からローンを組んでいれば、支払う金額はもっと小さくて済んでいたのだ。
最も重要なことは、マディーズ基金が助成申請者に向かって、彼らの優先順位を見直し、そして施設建設そのものが適切であるかどうか自問自答させている点である。

この議論は新しいものではない。AHA(アメリカ動物愛護協会)のフィールドサービス担当部長のニック・ギルマン氏 が長年、動物愛護団体に向けて訴えてきた事柄である。ギルマンは従来から、「より大きく、魅力的な建物を建てるということはペットの過剰繁殖問題の解決にはならない、動物の不妊去勢へ投資する方がより早く殺処分数の削減を達成できる。」というメッセージを発信してきた。ギルマンは、こうも指摘する。もし私達が過剰な犬猫が生まれないよう十分な不妊去勢を実施すれば、現在のスペースでも大きすぎるということになるだろう。
檻不足論から檻不要論へ
ノース・ショア動物連盟が10年前から、より最近ではマディーズ里親センターでの経験に見るように、広報活動の実施や魅力的な施設デザインを採用することで里親が見つかるまでの動物の滞在期間を半分に減らすことができれば、檻を増設しなくても施設の収容能力を倍増させることができる。つまり、施設の大きさよりも、その施設をどのようにデザインし、どのように運営するか、ということがはるかに重要なのである。
最後に指摘したいことは、シェルターの状況があまりにも劣悪な状態にあり、明らかに新改築が必要だというような施設は、一刻も早く、単に檻の中に動物を収容するというやり方そのものを見直した方がいい。人間は古代の狩猟家たちが猟犬を馬小屋で飼育するようになった3000年も前から犬を建物の中で飼うようになったが、その技術は古代ギリシア人やバビロニア人がフレスコ壁画に初めて書き残してからほとんど精錬されていない。
一方、シェルターの中でのケージ飼いは、夜警員が捕まえたノラ犬や猫(しばしば魔女も一緒に)を溺れさせるという、公共の見世物を実施するために始められた。この見世物に嫌悪を感じて、1873年、フィラデルフィア女性動物愛護協会が動物の過剰繁殖対策を実施する初の動物愛護団体として発足し、動物を収容していたケージを、殺しの儀式を実施する入れ物ではなく、検疫のための道具として用いるようになった。アメリカSPCAも同じ用途でケージを使用するようになり、後にニューヨーク市での動物の溺死ショーを廃止に導いた。ケージはその当時、人道的な目的で用いられるものではなく、狂犬病が克服されるまでの悲しむべき必要悪として捉えられていた。
狭い、騒々しい場所で動物を閉じ込めて管理するやり方は、犬や猫の精神を狂わせる危険性がある。イヌ科動物もネコ科動物も、野生ではそんな環境には住まわない。私達の知る限りにおいて、どの動物愛護団体も、シェルターの犬小屋やケージとさほど変わらないような環境で動物を育てるつもりである里親は受け入れていない。
化学医療実験への動物利用の擁護者がしばしば指摘するように、動物保護法に定められた動物実験用の犬猫の収容施設に対して定められた手緩い基準すら満たさないシェルター施設も多いかもしれない。
今では、古代や中世のやり方とは全く違う施設のデザインも開発されてきている。彼らは進んでそれを取り入れるべきだ。マディーズ里親センターの建築費用は、動物1匹あたりで考えると、従来型のシェルターよりも高額になるだろう。低費用で実現可能なものとしては、デルタ・レスキューが採用した俵製の犬小屋がある。
これは頑丈で、衛生的で、犬に優しく、必要があれば簡単に取り替えられる。また漆喰の塗られたデラックス室には100匹の犬を10年間収容することができる。まさに、野生の犬なら自分でこさえたいと思うような代物である。しかも建設費は2万ドルを下る。
しかしながら、やはり第1に優先すべきは、シェルターに収容される動物の数そのものを減らすことだ。1998年12月号のアニマル・ピープル誌に掲載したように、最も控えめな推定でも、不妊去勢手術を犬あるいは猫1匹に実施すると、次の3年間、1年で4匹の過剰な出生を防ぐことができる。
全米獣医師会が発表したデータを用いて推定すると、全米のすべての病院施設(公立・私立両方を含める)において、年間で800万匹の犬と1260万匹の猫が不妊去勢手術を受けている。アメリカを処分ゼロの国にするためには、年間であと50万匹の犬と800万匹の猫(うち600万匹はノラ猫)に対して不妊去勢手術を行う必要がある。これは達成可能な数値である。1987年から1998年の間、犬の不妊去勢は年間で160万匹ずつ増えており、猫は400万匹ずつ増えている。
ペッツマート、ノース・ショア動物連盟、ファンド・フォ−・アニマル、フレンズ・オブ・アニマルズ、サンフランシスコSPCA、そしてアニマル・ファンデ−ションといった他の中核的組織の活動に勢いを加えつつ、マディーズ基金はNo-KillNation(処分ゼロの国)の目標達成のための糧を提供している。
ただし、優先順位を保ちながら。
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