「特定犬種規制法(BSL)」
モントリオール現地事情
バーバラ・ケイ(カナダ)
Breed-specific legislation: the view from Montreal
by Barbara Kay

Barbara Kay
バーバラ・ケイ
カナダの著名なジャーナリスト

2003年からカナダの全国紙 Nationla Post のコラムニストとして執筆を続ける。New York Daily News 他多数のラジオや雑誌など多くのメディアで、ジェンダー問題、ピットブルの社会問題を中心に執筆活動を展開している。

この度、今年の4月に神奈川県足柄サービスエリアで発生したピットブル4頭による小型犬死亡事故を受け、米国の動物メディア Animals 24-7 の編集長メリット・クリフトン氏の紹介でバーバラ・ケイ氏にコンタクトし、日本版の掲載が決まった。


Profile
Since 2003, Barbara has been a weekly columnist for the National Post,
Barbara’s writing has also been published in in magazines such as the, C2C Journal Online, the New York Daily News, Campus Watch (online), Front Page Magazine (online), Pajamas Media (online), and the Prince Arthur Herald.
Barbara is a regular guest on a number of radio talk show, including the CBC’s Because News. As well, she is a frequent video blogger for Rebel Media.
In 2010 Barbara was a speaker at IdeaCity, speaking on the theme of “honour-motivated violence”.

Books:
2012: with Aruna Papp: Unworthy Creature: A Punjabi daughter’s memoir of Honour, Shame and Love.
2013: ACKNOWLEDGEMENTS: A Cultural Memoir and other essays.
2016: A Three Day event, an equestrian murder mystery.

Awards:
Woodrow Wilson Fellowship (1964)
National Coalition of Men’s 2009 award for gender fairness in journalism.
2013 Diamond Jubilee medal for excellence in journalism.
2017 – Canadian Institute for Jewish Research “Lion of Judah” award.
English Site

> 元記事はこちら(英語サイト)
モントリオール市がピットブル飼育禁止条例を可決し物議を醸すなか、2016年9月号の 地元新聞「The Montrealer」 は、専属弁護士リンダ・ハンマーシュミット氏のコラムを大見出しで掲載しました。コラムには、「犬の飼育禁止-思慮に欠ける政治的決断」という挑発的な題名が付けられました。

私のハンマーシュミット氏への偏見抜きに考えたとしても、彼女の文章や主張は子どもたちではなくピットブルを擁護する人々の常套句を繰り返しただけのものでした。
冒頭はその典型で、「特定犬種規制法(BSL)」は、ごく最近人間を襲った犬が、偶然ピットブルだったことに対する思慮に欠けたお役所的な対応だと主張しました。
Impulse, reaction, & reality
衝撃・反応 そして現実
その傷害事故は、2016年6月8日 ポワント・オ・トロンブル(カナダ ケベック州 モントリオール市)で起きました。クリスチアーヌ・バドネさん(55歳)が隣家のピットブルにかみ殺されたのです。飼い主は既存の飼育禁止令(地域の)をかいくぐるため、ピットブルをボクサーとして登録していました。米・カナダ全域で過去34年間に、ピットブルによって360人以上が亡くなり、3,000人が醜状障害を負っています。他の全犬種の95%を合わせたものよりかなり多い件数です。

この点に関して、ピットブル擁護者たちは、彼らなりの論理を存分に展開してきました。しかし、ここモントリオールでもそうですが、現実は彼らの論理とは大きく異なります。

私はピットブルの飼育禁止を支持し、10年以上にわたりピットブルについて調査・執筆をしてきましたが、「特定犬種規制法(BSL)」は、安直に、もしくは場当たり的に可決されるようなものではないと私は断言します。米国の軍事基地や700以上のコミュニティ、40か国の一部地域や国全体など、危険犬種の飼育を禁止した管轄地は、ピットブル擁護運動が前面に押し出している感情論の範囲を超え、その他の公衆安全問題と同様に疫学的観点に基づく調査をします。
It’s not just about “bites”
「咬むこと」ばかりが問題なのではない
ハンマーシュミット氏は冒頭の2段落で、「咬む」及び「咬んだ」という単語を7回使っています。「特定犬種規制法(BSL)」の目的を明らかに取り違えています。BSLは犬による咬傷事故の撲滅を目指すものではありません。致命傷を負わせるような犬の攻撃を無くし、深刻な傷害を減らそうとするものです。40年以上前に、論文審査のある医学専門誌で犬による傷害事故についての研究論文が発表されて以来、そうした事故とピットブルの密接な関係が囁かれてきました。今では致命傷や深刻な傷害とピットブルの繋がりは、否定できなくなっています。

例えば、2011年に ”Annals of Surgery” に掲載された画期的な研究論文、「危険犬種による死亡率・咬傷致死・身体損傷について」(ジョン・K・ビーニ、他3名)は、「ピットブルによる傷害事故は、他の犬種によるものに比べ、高い罹患率・高額入院費・高い死亡リスクなどと関連がある」と結論付けています。

ほんの数日前、2016年10月号 “Clinical Pediatrics”(小児科学術専門誌)に掲載の論文、「同一施設内で続発した犬の咬傷による1616件の傷害の特徴」(ミシェル・S・Golinko、他医師2名)は、「ピットブルによる咬傷は外科処置全体の半数、複数箇所咬みついたものは他の犬種と比較すると2.5倍以上にも上る」と報告しました。
“Bites” and “mauling” are distinct phenomena
「咬むこと」と「咬み殺すこと」の違い
もしハンマーシュミット氏が「咬むこと」と「咬み殺すこと」を異なるものとして認識していたのなら、ピットブル擁護者がよく口にする「特定犬種規制法(BSL)は、あまり効果が無い」という発言は無かったでしょう。もっともこの推論は、マニトバ州立大学の疫学者マラティ・ラバガン氏の調査結果に真っ向から対立するものです。ラバガン氏の論文は「カナダ マニトバ州において、犬の咬傷に起因する入院件数の減少に見るBSLの有効性」と題され、学術専門誌 “Injury Prevention”(傷害予防)で発表されました。

闘犬気質を持つピットブルは、攻撃対象に覆いかぶさり繰り返し咬むため、その咬み傷は他の犬種によるものより大抵酷くなります。オンタリオ州でピットブルが飼育禁止になる直前の2004年には、年間984頭のピットブルがトロント市に登録され、ピットブルによる咬傷事故が168件ありました。これは、2番目に攻撃的な犬種であるジャーマンシェパードの2倍以上の比率です。(私の統計はハンマーシュミッド氏のものと食い違います。私の情報源はトロントのAnimal Service局です。)トロントでは、犬による深刻な傷害事故が、32%減りました。(486件から329件へ)これは、ピットブルの数が急激に減ったためと言っても過言ではありません。ケベック州がオンタリオ州のモデル事業(BSL)に倣おうと乗り気なのはこのためです。
Calgary
カルガリー
ハンマーシュミット氏は、ケベック州は飼い主教育により事故を防ぐ、「カルガリー州のモデル事業」に倣うべきだと考えます。カルガリーのモデル事業は成功しているとの主張ですが、実際は上手くいっていません。カルガリーでの犬による傷害事故は、58件(2009年)から201件(2014年)となり、大多数がピットブルによるものです。

カルガリーでそのモデル事業を推進した委員長はピットブル擁護者で、animal service 代表在職中に、目に余る利益相反を犯しつつ、他の動物や人間からピットブルを是が非でも守ることを使命と考える運動家団体の理事に就任しましたが、既にカルガリーを去っています。

「ピットブルとロットワイラーについて大変憂慮しています」と、Animal and Bylaw Services の現代表であるライアン・ジェスタン氏は語りました(2015年)。 「トロント市のように全面禁止に至るには、それなりの経緯があり理由があるのです」とジェスタン氏は認めました。
Bad owners vs. genetics
飼い主が悪いのか、それとも遺伝的特徴なのか
ハンマーシュミッド氏は、多くのピットブル擁護者がそうであるように、問題の原因はピットブルの遺伝子ではなく、飼い主にあるのだと確信しています。しかし疫学的事実をみれば、そのような仮説は成り立ちません。公正なイヌ科行動科学者たちは、問題は遺伝子にあると言います。ピットブルは闘犬種として繁殖されました。好戦的で、戦闘力を誇示する機会をうかがっています。ちょうどグレーハウンドが速く走ろうとし、ブラッドハウンドが追跡をしたがり、ポインターが獲物の位置を知らせようとするのと同じように。

悪質な飼い主はピットブルを一層危険な犬に変えますが、どんなに誠実で注意深い飼い主でもピットブルを安全な気質の犬に変えることはできません。このことは、明らかに理想的な環境で飼育されていたピットブルが、初めて傷害事故を起こす事例が毎日のようにあることに裏付けられています。
Rights & eugenics
権利と優生学
ハンマーシュミット氏の主張で最も憂慮すべきものは、「ケベック言語法であろうと、ブルカやニカブや犬種であろうと、中心的なテーマは同じである・・・」という発言です。

ハンマーシュミット氏は、動物の権利は人間のものと同等であると仄めかしているようです。もし本当にそうだとしたら、動物に不妊去勢手術を施したり、つがう相手を選ばせなかったり、囲いに閉じ込めたり、承諾なしに安楽死させたりするのは許されないでしょう。

ハンマーシュミット氏は弁護士なのですから、均一になるよう組み立てライン式に作られた商品(人工繁殖させられた犬種)は、生きていようが感覚があろうが、苦痛から保護されるに相応しかろうが、人間一人ひとりと同じ権利を持ちはしないということを理解すべきです。

つまりハンマーシュミット氏は、特定の犬種を差別することは人種差別に等しいと仄めかす危険な美辞麗句をならべているのです。「繁殖させる」という行為そのものが、人種差別の典型である優生学の実践でなくて一体何だと言えるのでしょうか。彼女の言い分は筋が通りません。
If you only love pit bulls, you don’t love dogs
「ピットブルだけを愛しているのなら、それは愛犬家とは言えない」
1970年以前はピットブルという犬種は希少だったため、犬の攻撃による死亡者数も多くありませんでした。しかし当時でさえ、また犬による致命的な傷害事故の犬種別記録が残る200年を通してみても、ピットブルによって奪われた人間の命の数は、他のすべての犬種を合わせたものより多いのです。現在、ピットブルの数は犬の総数の1%から5%近くまで増えてきました。そして致命的で醜状傷害を与える傷害事故の数も急増しています。
公共の安全には、困りごとを無責任に引き起こしているのが誰なのかではなく、その数が問題なのです。

ハンマーシュミット氏の主張に反してすべてのピットブルを殺処分したいと考える人はいません。「特定犬種規制法(BSL)」は繁殖を廃止するもので、人道的で理にかなっています。犬の選択肢は400種もあり、そのほとんどはピットブルに比べてごくわずかの危険性しかありません。もしピットブルだけに愛情を抱くのなら、それは愛犬家とはいえないのではないでしょうか。
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