ペットの過剰繁殖と70%ルール
W. Marvin Mackie, D.V.M. 

編集者メリット・クリフトンは「フィボナッチ(Fibonacci)の70%ルール」をANIMAL PEOPLE誌2002年10月号の刊頭記事にとり上げた。私はその内容に強い興味を持ち、さらなる詳細をクリフトン氏に求めると同時に、自分でも調査をおこなった。この概念は根本的にペットの過剰繁殖問題に関連するため、問題解決の結果の良否を鋭く洞察する。そしてこの問題に立ち向かい、決定権を持つ全ての方々が充分に理解しておくべき価値のある概念である。時の数学者レオナルド・フィボナッチ(Leonard Fibonacci)は、1200年代初頭の農業生産に関する公式(モデル)を作りあげた。その600年後、ルイ・パスツール(Louis Pasteur)は伝染病予防ワクチンの初期開発に努めながら、このモデルを使って、ほとんどの伝染病の流行を防ぐには感受性集団のうちの70%が予防接種を受ける必要があることを予測した。世界保健機関(WHO)および疾病管理センター (CDC)などの主導的な公衆衛生機関は、現在もなおこのフィボナッチの70%モデルの有効性を認めている。

ペットの不妊手術は、実質的にいえば「過剰繁殖」という伝染病を予防する「ワクチン接種的」効果である、との見解を得てもそれほどの飛躍ではないだろう。この前提に立てば、結果として特定地域における実際の集団数の減少につながる、効果的な過剰繁殖数の減少を実現するためには、その限定された統計学的範囲内で感受性集団(手術を受ける優先順位の低い動物達)の70%に対して手術をおこなう必要がある。この不妊手術普及率70%の結果は、残り30%の伝播率(繁殖が成立する確率)が減少し、ある時点で出生頭数が自然に減少する頭数と同数程度になるということである。

クリフトン氏は、インドで行なわれた2例の野良犬不妊手術プログラムのデータを引用している。一方のプログラムでは64%、また他方では68%の不妊手術普及率でそれぞれの動物集団数に減少がみられた。1998年11月、私はモンタナ州西部のフラットヘッド・ネーションという先住民の地域で行われた不妊手術の一大プロジェクトに参加した。我々獣医師の有志が1週間で3箇所をまわり、6日間で1336匹の犬および猫に手術が行なわれた。実際の統計頭数はおそらく不明だが、その後数年間シェルターに持ち込まれる動物の数は著減した。クリフトン氏はまた、米国内で1980年代後半に飼犬の不妊手術普及率が67%に到達した直後から犬の安楽死件数が著減した、という動物管理機関の報告についても言及している。飼猫については、
不妊手術普及率が85%に到達した時点で安楽死件数が激減している。猫のXファクターはそれぞれの地域の野良猫の数に起因している。野良犬の数は比較的少ないため、統計学的には著明な影響にならない。

疫学関係者に幅広く受け入れられている70%ルールの論理的結論をたどると、幾つかの興味深い解答に到達できる。例えば、グレーター・ロサンゼルスとオレンジ・カウンティの2つの地域で、ペットの過剰繁殖の抑制に多大に貢献している人々は、懸命の努力にもかかわらず安楽死が減らないことにかなり当惑している。それは不運なことに、最初に手を加える時点ですでに繁殖力の強いペットがあまりに多数であること、また、両地域の人口密度の高い範囲が広大なため、不妊手術普及率70%の指標に到達するために必要な頭数を手術できなかったためである。クリフトン氏が強調しているように、70%を達成するか、さもなければ、大きな失敗(FLUNK)で、“B”や“C”の中間評価による結果は全く得られない。氏の言葉によれば、「不妊手術計画は70%に足りなければ、“大きいF”(=失敗)に終わる、すなわち繁殖する(fecund)動物達、野犬の群れをこわがり(fearful)、逃げまどう(fleeing)人々、庭や子供の砂場には猫(feline)の糞便(feces)、インチキ(fraud)だと罵る(flinging)くだらない(frothing)非難が沸き上がる」というわけである。

70%ルールは、定められた範囲であればどのような地域にも完全に適用できる。孤立した小さな町やコミュニティ(フラットヘッド・ネーションの先住民居住地区など)、あるいはまた、野良猫のコロニー区域にも適用できる。一般的に、裕福な地域はペットの不妊手術普及率が70%(またはそれ以上)に到達できるため、過剰繁殖問題は解決される。貧しい地区ではそれが70%に近づくことがないため、これらの地域のシェルターでは過剰繁殖と里親不足の犠牲になった不運な動物を受け入れざるを得ないのだ。この苦境を主題としてまとめあげた作品が、ボブ・クリスチャンスン(Bob Christianson)の著書Save Our Strays (野良たちを救え) CLC出版、1996年である。

ペットの過剰繁殖抑制プロジェクトを進める熱心な動物愛護活動家が資金提供者に対し、不注意にも過大な成果を確約してしまう傾向は頻繁にみられる。設立資金を提供する行政がこのような過大確約に対して出資し、それが一向に数字的な改善をみせない場合、自分たちの出資は期待通りの結果を得られていない、とすぐに結論づけてしまう。繁殖制限に現実的な影響を与えるためには、適切な地域に標的をしぼり、短期間に最大限の不妊手術を実施して、その中で70%の目標に到達することである。手術が1回の発情周期内で達成できれば、迅速で、ある程度手応えのある成果が期待できる。動物管理とシェルターの経費節減から発生した基金は、不妊手術提供活動を立ち上げるための資金援助に簡単に運用できる。不妊手術普及率70%
の目標が達成されれば、資金も活動も維持的レベルに削減することができる。毎月特定の日に何ヶ所かを訪問する「移動不妊去勢手術車」は宣伝効果と地域社会の意識を高め、個々の家庭やペットのためには100%有用であるが、残念ながらこの方法では、ある特定の地域で必要な手術数をこなすことができないため、過剰繁殖数の確実な減少には至らない。

過剰繁殖を防ぐ闘いの中で一般に用いられてきたスローガンは、「自分のペットに不妊去勢手術をして何百もの罪のない命を救おう」というものだった。おそらくもっと受け入れやすく、わかりやすいアプローチは「不妊手術はペットの健康および行動学的に有益であるばかりか、過剰繁殖と不本意な安楽死につながる、望まれない妊娠を防ぐワクチン接種と全く同じ行為なのだ」という事実を飼主に教育することである。不妊去勢手術は殺処分を排除することによって多くの生命を救うのだ。

私が「フィボナッチの70%ルール」に関するこの記事を発表したのは、獣医師が直面する難題を多くの方に理解していただくと共に、目標に邁進する我々の努力を評価する具体的な方法を提示したいと思ったからである。ただし、特定地域における正確な個体数を把握するには、あまりにも多くの様々な方法が存在し、実際70%を決定すること自体がかなり難しいと思われるかもしれない。


アニマルレスキューシステム基金