全ての臨床家にすすめる早期不妊手術 Veterinary Practice News(獣医学臨床ニュース) 第14巻 第9号 2002年9月 W. Marvin Mackie DVM (カリフォルニア州サンペドロ Animal Birth Control Clinic経営者) 北米獣医学会2000年 フロリダ州オーランド 2000年1月18日発表 獣医師の Dr. Leo L. Liebermanは、1987年「生後2か月齢の犬および猫に対する不妊去勢手術の症例」と題する啓蒙的研究論文を著しました。その資料として彼は3〜5か月齢(若齢期)と8〜12週齢(幼齢期)の犬および猫に日常的に不妊手術を実施している開業獣医師数名および4ヶ所のシェルターから情報を集めました。この研究は8〜12週齢の動物を対象として全ての臨床家に向け、獣医界に「早期不妊手術」を正式に紹介しました。この用語はその後急速に普及し、従来適齢期とされて きた生後6か月齢(またはそれ以上)よりも若い犬あるいは猫を対象とする選択的な不妊手術を意味するようになりました。 彼の論文に対する獣医師達の反応は否定的で、生後6か月齢以下の犬および猫を対象とする不妊手術をして、かつての経験主義的な判断を見直してはどうかというその論調には全く同調しないものでした。変化に対する懸念は以下のように様々なかたちで表われました。 第1にHenny Penny症候群(童話のたとえで、事実を確認する前に思い込みだけでパニックになり、その恐れの感情を周囲にまで広めてしまう徴候)、第2にうまく行くはずがないとの推測から、その論拠を造り上げて並べ立てるもの、そして最終的には、子犬および子猫を対象とした選択的な不妊手術は不当、粗野、不健全で残忍だという感情的な反応などでした。 早期不妊手術自体は新しい概念ではなく、小動物臨床の主流に至っていないだけだとの指摘もあります。20世紀初頭には生後2か月齢のペット数匹に対する縫合しない不妊手術の記載があります。身近な例では1950年、私の家族の農場でメールオーダーされた牧羊犬の子犬が、生後3か月半齢ですでに不妊手術を済ませてから届きました。ところが、1960年代初め、獣医大学在学中の私が教わったのは、不妊去勢手術に適切なのは6〜8か月齢であるというものでした。不思議なことにこの説を裏付ける研究は未だに明示されていません。 Dr. Liebermanの論文を初めて読んだとき、私は早期不妊去勢手術という概念に戸惑うことはありませんでした。アイダホ州の農場で育った私にとって、農場の若齢の大動物に行う不妊去勢手術は常識的なことでした。様々な家畜が若齢で不妊手術を受けた後、正常で健康な発育を遂げるのを間近に見て育ちました。この早期不妊去勢に対する実証的な先入観は、ペットの過剰繁殖問題に対する私の懸念と、私が臨床活動(4箇所のクリニック経営)を不妊去勢手術に限定しているそもそものきっかけとなっています。早期不妊手術は公的あるいは私的動物シェルター、レスキュー団体、里親仲介者にとってきわめて重要です。彼らは、過剰繁殖を精一杯軽減するために、里親に出す前の不妊手術 Neuter Before Adoption(NBA)を採用しています。若齢の動物には里親が見つかりやすいため、斡旋機関にとっても早期不妊去勢手術は好都合なのです。どちらかを選択できるとしたら里親志望者は不妊手術をしていない動物よりも済ませた方を選ぶでしょう。ブリーダーでさえ早期不妊去勢手術によって恩恵をこうむります。繁殖用に使う予定のない若い犬および猫は手術してから販売することができるからです。 ここ20年における麻酔学の進歩は、いくつかの素晴らしい注射用麻酔薬、およびきわめて有用な2種類の吸入用麻酔薬を我々獣医学の現場にもたらしてくれました。注射用麻酔薬 (Ketaset, Telazol, Rompum, Acepromazine, Valium)は併用によって外科手術に最適なレベルまで麻酔程度を強化できます。低用量(術前処置レベル)では、注射用麻酔薬を低用量のハロセンまたはイソフルランと併用することによって、麻酔効果を最大限することができます。1994年、動物シェルター獣医師協会(the Association of Animal Shelter Veterinarians)は非公式な小さな発表の中で当時手術に使用されていた11種類の麻酔プロトコールの一覧を公表しました。ほとんどは併用で組み合わせがすべて表になっていました。それぞれに愛用者がいました。健常動物に行う侵襲性の少ない短時間のスムーズな外科手術であれば、どのプロトコールも若齢あるいは幼齢動物の不妊手術に適用できると私は確 信しています。他人のプロトコールに従うのではなく、自分自身のプロトコールとそれに対する患者の反応を熟知し、満足しておくことが重要でしょう。そのプロトコールはごく幼齢の患者にも簡単に応用できるはずです。 初回発情前の動物の麻酔に対する驚くべき回復力とその手術法そのものがTexas A&Mの研究報告書にわかりやすく説明されています。その背景は教育現場で高学年の獣医学生が生後8週齢から5か月齢までの1988匹を対象として不妊去勢手術を実施したものです。研究は短期間の合併症、たとえば術中あるいは術後7日以内に発症したものを報告しています。合併症の発現はクラス全体できわめて少なく、厳密には12週齢以下の群でもっとも発現が少ないという結果でした。この観察は、それだ けで十分な説得力を持っています。しかしながらここで注目すべきは、教育動物が術前から術中にわたって受けた麻酔時間の長さです。手術時間は雌で60分+/−23分、雄は21分+/−17分でした。これはかなり長時間ではないでしょうか!若齢動物の回復力および手術に対する抵抗力を明確に示しています。通常予想される実際の手術時間は10〜20分ですから、この研究は、不安を抱く臨床家に自信を与えるという意味で非常に価値のあるものでしょう。 Dr. Liebermanの論文の発表以降、様々な研究および相当数の賛否両論が巻き起こりました。私の趣旨はこれらの研究を見直すのではなく、獣医学界は今どういう状況にあるのか、またそれが臨床家の先生方にとって何を意味するかを考察するところにあります。研究者を含む多くの傍観者の方々には意外かもしれませんが、生後6〜8か月齢を不妊去勢手術の目安とする指針に戻す警告を示唆するような危険な兆候は出てきていません。不妊手術を受けていない動物と受けた動物との間に明らかな違いはあっても、7週齢と7か月齢でそれぞれ手術した動物との間に差異はないのです。 DVM Magazine(獣医師雑誌)の記事の中で、獣医小児科学の著者でもあるJohnny Hoskins, DVM, PhD, ACUIMは、一連の懸念事項に触れ、「早期不妊手術がリスクを増幅するという主張を支持する見解は文献にも証明されていない」こと、さらに「手術のリスクよりも利点の方がずっと大きい」との見解を示しています。 ある6件の電話調査研究がどれもほぼ同様の結果を示しています。それはペットを飼育している家庭のうち、猫の85%、犬の70%が不妊手術を受けていると報告しています。かなり良い結果のようですが雌犬および雌猫の場合、その不妊手術前に出産はあったかどうかという質問に対しては、20%の飼主が「はい、1回か2回以上!」と答えているのです。 早期不妊手術がなぜ先生方の臨床活動に最適なのか説明しましょう。シェルターおよび愛護団体のために里親に出す前の不妊手術 Neuter Before Adoption (NBA)を提供している我々獣医師は、新規に家庭で飼育される全てのペットのうちのわずか10〜15%に手を加えているに過ぎません。残りの85〜90%は他のルートから飼主の手に渡り、おそらくそのほとんどが不妊手術を受けていないはずです。理想的なのはこの他のルートから家庭に入るのペットの多くが初期健康診断で先生方のクリニ ックに来院することです。早期不妊去勢手術が臨床家にとって最適な理由は、一連の健康管理プログラムの中に予め組み込むことができるからです。獣医師とスタッフは、クリニックに来院するペットが最後の予防接種と同時に不妊あるいは去勢手術を受けるように、一連の計画を熱心に説明します。その頃には獣医師はそのペットを熟知していますし、ペットも手術に適応できるでしょう。一般的に犬の手術は生後4か月齢で狂犬病ワクチン接種と同時に行ないます。1回の来院で、最後のワクチンと不妊手術を受け、不妊済みと狂犬病予防接種の両方の証明書を同時に入手できるのですから、便宜的です。不妊手術を済ませた犬はいつでも鑑札を受けることができますし、ほとんどの地域で減額の対象になります。誰もが得をするというわけです!猫の手術は通常生後3か月齢で行います。私のクリニックでは3か月齢、またはそれ以上の猫あるいは犬の飼主から手術の適齢期を問い合わせる電話に対して「今が最適です」と答えます。獣医師が自信を持って早期不妊手術をすすめれば、飼主は快く受け入れるものです。 ここで肝心なのは、数か月後ではなく、「今すぐ」来院してもらうことです。飼主が多忙な生活にかまけて、ぐずぐず手術を延期したり忘れているうちに気づいたときには手遅れで、すでにその子宮は攻撃の対象となっているのです。飼主の多くはこのシンプルな目的意識や、繁殖問題という大きな意味で、自分のペットがどれ程影響を与えるのかということを理解できないのです。その結果は往々にして、20%もの「予期せぬ出産」となるのです。室内にペットを拘束するだけでは、充分効果的な繁殖制限の手段とは言えません。 我々獣医師はこれまでの知見によって、この「ヒトによるワナ」を避ける援助ができますし、またその遂行義務を背負っています。飼主の不安やペットの過剰繁殖問題はあまりにも重要だからです。米国獣医学協会(AVMA)が最近発表した見解は全関係者にその方向性、問題の重要性と希望を与えています。 米国獣医学協会(AVMA)の犬および猫の早期不妊去勢手術に関する決議は1999年4月、理事会で承認され、それは「望まれずに生まれてくる犬と猫の個体数を軽減する意義において、AVMAは早期(初回発情前にあたる8〜16週齢)性腺摘出術を支持する。他の獣医学的手術と同様、獣医師は最善の医学的診断を検討し、個々の動物に応じた性腺摘出術の適齢期を決定すべきである。」という内容です。 従って我々は、予期せぬ出産のリスクを減らそうという社会および飼主のニーズに応えるために、初回発情前の不妊手術を徹底すべきであることをすでに認識しました。また、従来の年齢で手術した場合と変わらない発育を示すことが様々な研究によって証明されています。今こそ、まさに先生方のクリニックで早期不妊手術を臨床活動の中に取入れるべきではないでしょうか。 不妊手術の時期を従来の生後6か月齢から6週齢へ移行しようと考え始めた臨床家の先生は、最初戸惑うかもしれません。あまりにも小さくてフワフワした生き物は繊細なはずで、些細なミスも許されないと思いがちです。実は正反対で、このフワフワの小さな動物達は驚くほど抵抗力を有し、比較的短時間の外科手術からの回復も早いのです。 子犬は生後4か月齢およびそれ以上、子猫は3か月齢およびそれ以上であれば、なんら特別な処置も心配もいりません。飼主には確立された麻酔プロトコールを用いた、一般的な選択的手術の説明をします。 初回発情前の動物の手術に共通する特徴は次のようなことです。 1. 出血が少ない。 2. 手術部位がはっきりと確認できる。 3. 組織に弾力性があり、結紮しやすい。 4. すべてが小さく未成熟なので縫合部位も少なく、手術時間が短縮できる。 5. 使用する薬品量が少ない。 6. 患者の不快感が少なく回復が早い。 7. 合併症はまず発現しない。 8. 術後の回復時間が短い。 9. 飼主が満足する。 上のリストは大きな利点ばかりです。体重18キロほどの生後4か月齢の雌のロットワイラー犬を思い浮かべて下さい。今度は、14〜16か月齢になった同じ犬です。すっかり成長し、活発で体重も40キロを超えているでしょう。飼主はこの犬が発情を繰り返すことに耐えられない様子です。先生方はどちらの時期に手術をしますか? 生後3か月齢の雌猫の子宮角は子宮鉤で簡単に拾うことができます。私の仲間達は、肥大し、発情で充血した1歳齢の雌猫の子宮を見て嘆きます。12週齢での手術が望まれるのに、あえてそれを先送りするのは利口とはいえません。 飼主に早期不妊手術をすすめる場合、必ず幼齢期、たとえば7〜12週齢の動物の飼主を熱心に奨励し、よく話し合うことです。 すべてのクリニックがこの年齢層を採用する必要はありませんが、この幼齢動物の手術ができるクリニックを近隣に数ヶ所必要とする組織があります。例えば、カリフォルニア州で2000年1月、人口10万人以上の地区の全てのシェルター(公私とも)およびレスキュー団体に対して、里親に出す前に犬と猫に不妊去勢手術を済ませることと、それができない場合は最低40ドルの保証金を徴収することを義務づけるようになりました。さらに、医学的な理由で手術が遅れる場合も、30日以内にしな ければなりません。ある地域内で、どのクリニックもこのような幼齢動物に進んで対応しようとしない場合、周囲の獣医師はみな一斉に評判を落とすことになります。逆に、積極的に手術を引き受けるクリニックは、終生の顧客を獲得し、経営も順調で高収入を確保できるでしょう。そうでない医師は脇に追いやられてしまいます。この仕事は臨床活動の強化と、宣伝効果につながります。 幼齢動物は心理的特徴とメカニズムの違いによって特別な注意を必要としますが、神経質になるべきではありません。幼齢動物は術前の朝、軽い給餌をします。たとえば手術の2〜3時間前に給餌(通常の約半量)をします。グリコーゲンは頻回補給しなければならないからです。術後1時間程で再度給餌をします。たいてい食欲があってその様子を見るのはとても楽しいものです!術前、術後を通して、適切な室温を維持します。体の芯部に対する表面積が大きいため、極端な温度に影響されやすいのです。患者を寒いケージ、ステンレスの台や空調設備のダクトの前などに放置しないようにします。術前処置用の台と手術台には厚めのタオルを敷くだけで体温の低下を防ぎ、また回復室では軽いタオルをかけてやります。術前処置の際、液体で被毛をぬらし過ぎないようにします(気化熱で体温が低下します)。こうした作業は室内で簡単に実施できるため、通常の業務に差し支えることもありません 。 早期の場合、成熟動物を対象とした手術には見られない点がいくつか考えられます。幼齢動物の酸素消費量は成熟動物に比べて2〜3倍多く、また交感神経系が十分に発達していないため、心拍数(毎分200以上)および呼吸数(毎分15〜35)の代償性の増加(速度亢進)がみられます。これは正常な変化です。最初はまず子猫から始めるのがいいでしょう(おそらく犬に比べて容易です)。雌犬の場合、子宮が確認しにくいこともあります。最悪の場合切開部位を後方まで広げて膀胱から確認します。子犬は相当量の腹腔内奨液(正常な浸出液)を有する場合があり、最初は間違えやすいのですが、これは膀胱の内容物とは異なります。 早期不妊手術を奨励することで、臨床家の先生方がご自身のため、患者のため、依頼者(個人、シェルター、里親仲介者など)ひいては、地域社会のために、如何に大きな役割を果たせるかを理解していただきたいと思います。さらに詳しい情報をご希望であれば、次の文献から全ての関係論文の編集版を参照することができます。 Lisa M. Howe, DVM, PhD.,「初回発情前の犬および猫の性腺摘出術」モ Prepubertal Gonadectomy in Dogs and Catsモ, Part 1 and 2, Compendium( 1999年2月・3月)。 読みやすい文献なので、早期不妊去勢手術の過去から現在にわたる全容を知ること ができるでしょう。 大切なのは自分の力を信じてとにかく始めてみることです! |
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